誰が為に狩猟するのか――? 南房総の猟師がトークイベントに登壇、参加者と一緒に考える

2019.7.17

近年、狩猟に興味を持つ若者や女性がメディアで取り上げられ、「狩猟」はちょっとしたブームになっている。7月10日、シェアオフィス「HAPON新宿」(東京・新宿)で「南房総×狩猟~誰が為に狩猟するのか」というテーマのトークイベントが開催された。南房総エリアに住む3人の猟師が登壇し、それぞれの立場から「狩猟に対する思い」を語り、参加者と交流を深めた。

3人がそれぞれの立場で語る

今回、参加したのは、東京都や千葉県、群馬県など関東近郊から来た40人超。HAPON新宿で開催されるイベントの中でも、狩猟をテーマにしたものは人気と言える。

登壇したのは、ふだんはコーヒーロースターとして仕事をしながら、主に冬、狩猟を行っている元沢信昭さんと、「仮面駆除テッツォ」という名前でYouTubeで狩猟動画を配信しているテッツォさん。そして、館山市の地域おこし協力隊として狩猟に取り組んでいる沖浩志さんの3人。

駆除した動物の9割は破棄する

元沢さんは、2017年に南房総市に移住し、野生動物によって、畑が荒らされる被害を目の当たりにし、狩猟に興味を抱いた。昨年、狩猟免許を取得し、解体の資格も保持している。「夏場は近所の農家さんに頼まれれば狩猟をしますが、基本的に冬場しかしないんです」と元沢さん。冬は、本業であるコーヒーロースターの仕事を日中に終わらせ、午前中は捕獲、夕方は解体をして、ジビエ肉を楽しむというライフスタイルを語った。

「狩猟は生き物相手の仕事なので、時には危険が伴う」とリアルな意見も。「現在、市に解体所がないので自宅で解体しているが、衛生管理にはきちんと配慮し、子供が食べても安心な肉を自家消費しています」と話した。

仮面駆除テッツォさんは、名前のとおり仮面をつけて登場。現在、鋸南町で有害動物の駆除を行っている。トークの中で「有害駆除と狩猟は、まったく別ものである」と断言。「有害駆除とは農業被害を減らすため、有害動物を減らすことが目的で、狩猟はあくまでも趣味。趣味で命をいただき、肉を楽しむこと」と語った。

また、「有害駆除とは個体数を減らすことが目的であり、町に解体所がないため、殺した動物の9割は破棄している」という現状についても言及。駆除をしていかないと、畑を荒らす有害動物は増え続ける一方という現実についても語った。

トークの途中、テッツォさんが自分のYouTubeチャンネルのシカを止め刺しするシーンを流すと、会場は一瞬、静まり返った。鳴き叫ぶシカを刺し殺す――。駆除のリアルな現場を撮影しているだけに、時として、「残酷」と批判を受ける動画でもある。「イノシシやシカに畑を荒らされたおばあちゃんは、怒りを感じ、時には野生動物の存在に恐怖を感じているんです。駆除をしたとき、『ありがとう』と言われることが何よりもうれしい」と感想を述べた。

館山市地域おこし協力隊の沖浩志さんは、小さいころから動物好きで狩猟に興味を持った。やはり、捕獲した野生動物の9割が廃棄される現状を話した上で、「破棄される肉を使ったジビエのイベントを行い、関係人口を増やす活動を行っている」と話した。さらに、狩猟を副業とし、本業に生かすという新しい仕事のあり方も提示。「例えば、介護を本業としている人なら、お年寄りの様子を見回りしながら、狩猟をすることができる。狩猟の資格を持っている人は、今後、こういう仕事の仕方もできる」と話した。

「免許取りたい」という人がいる一方…

トークイベントのあと、参加者と猟師が交流。参加者の一人で、すでに狩猟免許を持っている女性は「冬場だけ、岩手県や静岡県で狩猟をしているが、南房総エリアには知り合いがいないので今回、参加した。猟師さんにもっといろいろな話を聞きたい」と目を輝かせていた。

また、「実際にやっている人の話を聞いて、自分もできるんじゃないかと思った。もうすぐ定年を迎えるので、このタイミングで狩猟免許を取りたい」と話す男性も。

一方、「リアルな話が聞けてよかった。ただ、駆除だから捨てていいということだと思うが、それでいいのかという疑問が残る。捕ったものをどうするのか、という部分の理解を深めていくことが大切なのでは。駆除というのは少しイージーな言葉であるような気がする」という男性の意見もあった。

「自然との共存に関心があるのでは」という意見も

ところで、近年、なぜ狩猟ブームが起きているのだろうか。会場にいる人に意見を聞いてみた。

「人間には狩猟をしてみたいという本能がそもそもあると思う。テレビ番組で狩猟のことを知り、やってみたいと思う人が増えているのではないか」、「ジビエに興味がある人が増えているのではないか。だた、実際に狩猟をするとき、殺すことが一番ハードルだと思う」という感想があった。

一方、このような意見もあった。「自然と人間の共存に関心があるのではないか。人間が文化的な生活をしようと思うと、必ず自然との軋轢が起きる。その軋轢を解決させるのが狩猟だと思う」

誰が為に狩猟するのか――? これは、今回のイベントのテーマであり、そして、人間が生きていく上での永遠の問いなのかもしれない。

(記事執筆=鋸南町地域おこし協力隊、清水多佳子)