【イベントレポ】南房総2拠点サロンvol.7〜南房総×教育

2019.1.30

都心と教育格差、情報格差。地方の教育は、大都市で暮らしてきた人が移住を考えるときに、子どもをもつ家庭であれば少なからず気になるワードではないでしょうか。地方に行くほど子どもの数も減っていき、若者がいなくなり、そのまちは消滅、、、果たしてそれだけなのか。地方の良い面も悪い面も取り入れながら、どう子どもたちを地方に送り込むのか。あるいは教育って子どもに向けてだけの言葉なのか。南房総での教育について語り合う、「南房総2拠点サロンvol.7 南房総×教育」が2019年1月16日(水)HAPON新宿にて開催されました。

新年1発目の南房総2拠点サロン

今回の「南房総2拠点サロン」は教育に興味のある社会人1年目の千田が、実際にイベントに参加し、その様子をレポートします!今年も、月に1回の南房総2拠点サロンがイベント主催者の一人であり、モデレーターを務められた永森昌志さんの挨拶により始まりました。参加者は約20名ほど。内、デュアラーと呼ばれる2拠点生活者(みなさんご存じでしたか?)は3人、東京在住は10人、その他という内訳。年齢層も幅広く、東京在住参加者の一人は、南房総での教育についてイメージがない、絞り出して臨海学校みたいな感じ?と頭にはてなを浮かべているようでした。そして、やはり教育の質が低いのではないかと思われているようで。このイメージをパネラーの方はどんな風に覆していくのでしょうか。さっそく見ていきましょう!

自治体から見た南房総の教育—佐藤進さん

教育に20年以上携わられている佐藤進さん。現在は南房総市教育委員会の子ども教育課というところにお務めになられています。

「教育長がよく言う言葉が“最南端は最先端だ”」とのこと。子どもの数は20年で半分くらいに減ってはいるものの、その少なくなった子どもたちを義務教育が終わるまでしっかりと面倒を見て、自立させる。都会の子にも負けない教育をやっていこうというスタンスで取り組んでいるそうです。これは自治体ならではの見方かもしれません。その教育のあり方を“南房総市の15年教育”と呼び、以下の4つの柱で動いているとのこと。

①学力向上(どこに行っても通用する学力をつけよう)②南房総学の推進(地元の勉強をしよう)③不登校0の実現④就学前保育・教育

特に①と②について話していただきましたが、①の中の特徴として、南房総市には独自の授業としてバウチャー授業というものをおこなっているそうです。どうしても田舎の弱いところとして挙げられる各家庭の経済的基盤と地理的要因。これらによって十分な教育を受けられないことを防ごうと、家庭の収入に応じて助成しています。例えば、塾に行きたくても電車がなければバスもない。自転車で通えるかと言われればそうでもない。そういう地理的に不利な学生に対して、塾の先生に学校に来ていただく。そのときに各家庭が負担するのはテキスト代のみで、受講費や交通費は免除されるのだとか。

交通の便が悪いところは特に子どもにとって不便なことだと感じますね。結局親しか車の運転ができないからお金以外の面でも頼らなければいけない。そうなってくると、変に気を遣い出す子どももいるのではと思います。でもこのように自治体からの助成があれば、使っていいものなのだと認識でき、親も子も安心できる教育環境が生まれそうです。ただし、もっと教える側のサポートも忘れてはならないとも感じました。ある地域では、別の県から塾講師を毎週呼んで授業しているというのを聞いたことがあります。都心と地方の教育格差が物理的要因にならないように、今の時代ならなんとかできそうだなと思いました。

そして、②についての驚きの事実。みなさんご存じでしたか?南房総の給食は“日本一おいしいごはん給食”と言われているそうです!ごはんというところにも注目していただきたいのですが、南房総の給食ではごはんしか出ないそうです。パン麺なし。揚げパンでないのか…と個人的に思ってしまいましたが、出ません。さて、なぜごはんしか出さないという意思決定でやっているのでしょうか。それは、
「子どもが食べたいものではなく、大人が子どもに食べさせたいもので給食を考えたい」という想いのもと。

現在は6割くらいが南房総の食材を使っているとのこと。千葉県のではなく、南房総のと言える食材が6割もあるってすごいですよね。やっぱり地元の食材が使われているのを知ると、子どもたちも嬉しいでしょうし、なにより親からの信頼も大きいのではないでしょうか。都心だとなかなかこのような給食を実現するのは難しいので、田舎だからこそできる取り組みとして自分たちのまちのことを知る一つのきっかけとしておもしろいですね。

そして、東京に近くても子ども不足に苦しむ自治体は多い現実を知りました。だからこそ、日本全体で取り組んでいかなければならない課題の一つとして、南房総から学べることは少なからずありそうです。

自然からかけ離れたものが主流になってくる時代だからこそ大切なこと−沼倉さん

一般社団法人森のようちえん「はっぴー」園長の沼倉幸子さん。
森のようちえんとは、“自然体験活動を基軸にした子育て・保育・乳幼児・幼少期教育”の総称。沼倉さんは、東京調布からの移住者の一人。一度幼児教育の現場から離れ、もう一度関わりたいと思ったときに野外保育をおこなう森のようちえんがあることを知ったそう。

「振り返ればいつの間にか子どもたちが育っていた」

「はっぴーをつくって8年。最初は右も左もわからずだったが、気づいたら子どもたちが成長していた」
人が、南房総の自然環境がそうさせたのでしょうか。

はっぴーには、屋内の施設がありません。例えば、畑での学習があるそうですが、「1年目2年目は子どもたちも“畝”という存在を知らない。そのために、作物と雑草の区別がつかない、平気で畑の中を歩くなどは当たり前にあった。しかし、何年か経つと畝の上を歩く子がいなくなっていた」。はっぴーでは、縦割り保育を導入しているため、3歳の子が5歳の子の働きを見て学ぶようになったことが大きいようです。

他には、海に行ってマンボウを触る体験をしたり、岩の上から海へ飛び込むチャレンジをしたりさまざまな野外活動をしているようです。ここでスタッフたちが気をつけていることが、自分で決めさせるということだとか。「子どもたちが自分で考えて自分で行動を起こす。そこに学びがあると思っているため、多くの手はかけないようにしている」マンボウを触るのも海へ飛び込むのも手を差し伸べるのではなく、子どもたち自身で決める。それができたときの子どもたちの成長の著しさが想像できました。

人はつい手を差し伸べたくなってしまう生き物で、子どもに対してだと尚更かと思いますが、自分で意思決定するという力を子どものうちからつけられる環境はこれからの時代に重宝されていくのではないでしょうか。また、海にも山にもすぐに行ける南房総の環境は、そういった野外保育をおこなう環境により適していると思いました。近年はそういう環境に子どもたちを触れさせたいと移住してくる親子の話も聞くので、これからどんな注目を浴びていくのか楽しみですね。都心ではとても難しい保育形態です。

自分が行ってみることで子どもたちへの影響の可能性を感じて−川鍋さん掛田さん

このお二人は、家庭的な視点から南房総での教育の可能性を感じられています。川鍋さんは2拠点生活者(通称デュアラー)で平日は横浜、休日はほぼ南房総という生活スタイルを送られています。掛田さんは“パラサイト”デュアラーと自らを呼び、2拠点先はもっていないが、2拠点生活をしているかのようにその生活をしている人たちのところへ結構な頻度で遊びに行く。お二人のスタイルは似ているようで若干違います。

川鍋さんは、奥さんと娘さん2人の4人暮らし。元々都会での生活はコスパが悪い生き方だなと感じていて、どこかもっと離れている場所へ、ただ離れすぎているのもちょっと、、、千葉の南端で住める場所ないのかな〜と思っていたときに、ヤマナハウスという築250年の古民家でおもしろい大人たちが集まっているのを見つけたそう。私も一度伺ったことがありますが、何でもできそうな古民家そして周りの自然環境だと感じました。現在では川鍋さん自身もヤマナハウスのメンバーであり、ヤマナハウスのすぐ近くに3LDK3Nの一軒家を借りているそうです。

娘さんたちは、野草を採ったりキャンプしたりアマガエルを捕まえてみたり、、、まるで田舎生まれ田舎育ちかのように自分で遊びを見つけることで、遊びの幅が広がったそう。確かに、都心だと遊べるところも限られていて近くにある公園もとても小さなものが多いですね。
食育の観点で言うと、「野菜を育ててみることで、失敗成功は関係なしに普段食べているものが口に入るまでにどういうプロセスでどれだけの労力がかかっているかを自分たちで考えるようになった」そう。肉に関して言えば、「スーパーの切り身で売られている肉しか知らないところから近くで生きていた動物を捕って切って食べるんだ」という衝撃の事実を知るなど。そういう体験から、自分が口にするまでにどのような経緯で来ているのかを気にし出しているとか。

借りている一軒家については、「ゆくゆくは娘たちの友達を連れて、10〜20人くらいで臨海学校みたいな感覚で遊びに来て欲しい。一人で家を使うより、みんなでシェアして使っていけたら」と話していました。

一方の掛田さんは、東京生まれ東京育ちで旦那さんと息子さん娘さんとの4人暮らし。大学在学中に世界の田舎を巡る旅に出てから、人が集う寛容性のあるまちづくりに興味をもち、以来そういうまちづくりができそうな住宅会社に入社し、人が集まる場作りをされています。南房総との出会いは3年前。とある断熱エコツーリズムワークショップに参加し、今までは家を売ることしかしていなかったが、そういうサービスに頼らずにみんなでつくりみんなで暮らすあり方がそこにあり、引き込まれたそう。そこから2拠点生活者の家に遊びに行くことも増え、大人だけではもったいないと子どもも連れて行くようになりました。子どもにとっては多様性のある大人に学校では教わらないことを知れることが魅力的に感じられたようです。高1の甥っ子さんを連れて行ったときは、「大人になったら2拠点生活したい」と言い出したようで、学校だけでは出会えないおもしろい大人と触れ合うことでこのような夢が生まれていくのかもしれません。

お二人とも共通して話されていたのが、子どもにとっての非日常体験が魅力になっているというようなこと。「学校では危ない、やめなさいと止められるようなことでも、南房総に来れば、できる。危険なことをやれる魅力が子どもにとってはたまらない」んだとか。そして、本当に危険なことは周りの大人が教えてくれるので、一度知れば次からは自分たちの判断で考えることができる。
このような大人が近くにいることって都心にいたらそうそうないのではないでしょうか。
よく、東京に住む人たちは隣に住む人の顔さえも知らないということを耳にします。上京してきた頃は信じられませんでしたが、親と先生以外に見守られている感覚がないことが現実なんだと思い知らされました。でも、社会に出たら親はいない。会社には知らない大人ばかり。そういう状況で強く自分らしく生きていけるのは、幼少期にどれだけの大人と出会い、たくさんのものに触れ、自分に素直に生きられたかによるのではないかと思いました。

ただし、東京での暮らししかしたことない方は、まだまだ2拠点や移住に対して不安を抱えているようです。このイベントに参加された方も「ずっと東京に住んでいてそろそろ他のまちで暮らしてみたいと思うが、地方暮らしにイメージがつかない、それこそ子どもをもったときにどの観点を重要視して子育てするか決めきれない」と話していました。東京の便利さをわかっている分、それ以上の良さがあるのかと思ってしまう部分もあるのかもしれません。それは誰しもが思うことで、新しい世界を見てみたいけどよくわからない、不安。そのような感情を潰していく一歩に南房総はもってこいの場所なのではないでしょうか。

今後も、南房総2拠点サロンから生まれる新たなアイディアや出会いに期待が高まりました。

次回のテーマは、「南房総×スタンプラリー」2/13(水)@HAPON新宿
スタンプラリー?どういうことでしょう?私もよくわかりません。ご興味ある方はぜひ足を踏み入れてみては?