南房総地域にサテライトオフィス新設!「IT」という新しい雇用を生み出した 「株式会社インターコム R&Dセンター」

2017.12.25

移住を考えている人々にとって、難題となるのが「仕事をどうするか」という点。魅力的な住環境があったとしても、安定して収入を得られる仕事が見つからなければ、移住をするという選択肢は取りづらいものですよね。

そこに新しい一石を投じたのが、東京・秋葉原に本社を置く法人向けビジネスソフトウエア会社である「株式会社インターコム」でした。創業者であり同社会長である、旧千倉町出身の高橋啓介氏が、2016年に現地法人として「株式会社インターコム R&Dセンター」を設立し、その社屋を、遊休施設となっていた旧千倉町保育園に置きました。

開設から1年あまり経った現在、ここでは約20名余りの社員、パート社員が働いており、本社からアウトソーシングされたコールセンターと配送業務を主業務に、この地域に新しい雇用を生んでいます。

南房総という地に機能移転をした狙いは何か、また、現地のスタッフは実際どのように感じているのか、高橋社長と現地社員の方に、声を聞いてみました。

■まず高橋社長にお聞きします。南房総市での新拠点開設の経緯についてお聞かせください。

当社はIT業界でもう35年やっている会社ですが、その中で、私は長年ずっと「我々がやっている業務は、その全てを東京でやる必要があるのか」という疑問を持っていたんですね。もし地方で一部の業務をやれば、もっとメリットがあるのではないか、と。そこで、たまたま私が南房総の出身だったので、市長さんに「我々の業務の中の一部を南房総でやったら、市としてメリットがありますか」という、お話をさし上げたんですね。

と言いますのも、実はそれまでにも、我々のところにいろんな自治体、たとえば和歌山、宮崎といったところから、誘致の話が来ていたんです。ですから南房総市でそういう話は無いのかな、と思って聞いてみたら、市長は「それは面白いです。ぜひお話をしましょう」ということで、この話がスタートしたんですね。

ここにお互い、どういったメリットがあるかと言いますと、我々の業務の一部を南房総市にシフトすると、南房総市としては雇用問題がプラスになるわけです。もともと南房総にはITの会社が無かったので、我々が行けば新しい産業が生まれ、他の企業の誘致の「モデル化」もできるというんですね。

我々のメリットとしては、我々の業務には本社機能、ソフトの企画、開発、販売、配送、メンテナンス、コールセンターといったものがあり、そのうち、本社、開発、販売は東京のほうが都合が良いんですが、それ以外は、地方でも十分にできるんじゃないかと、私は、ずっと今まで感じていたんです。東京で全部の業務をやっていますと、特にコールセンターなどは人数が多いので、オフィス代がたまらなく高いわけですよ。スタッフの人件費も高いですし、転退職も多くてなかなか安定しません。

その点、地方ではコストも桁違いに安いですし、その分多く人を雇えますから、安定するんですね。特に南房総市の場合は市のバックアップがしっかりしていて、施設についても、求人についても、非常にやりやすい体制があるんです。移転のきっかけは、そんなところでしたね。もちろん、一番の決め手は「東京からの近さ」でした。飛行機や新幹線を使う必要が無いから、非常に気軽ですし、私にとっては地元ですから、地域性も分かっていて、安心感がありましたね。

台東区にある株式会社インターコム

 

■もともと保育園だった建物を利用されているそうですが、良かった点、苦労された点をお聞かせください。

南房総市は7町村を合併してできた自治体なので、旧自治体の公共施設が沢山余ってしまっていたんです。ですから我々は、いろいろな中から、一番フィットするような施設を選ぶことができて、その点はすごく良かったですね。改修費用も全額南房総市の負担です。彼らも我々みたいな企業を、多少の負担してもいいから、誘致したいと考えてくれているんですね。お互いにメリットがあるので、あらゆることがスムーズに進みました。

苦労した点は雇用ですね。募集すれば人は来るんですが、面接をやって適切な人を選ぶとなると、なかなか。私達のコールセンターは企業のIT担当者がお客様となる、専門性の高いものなので、対面をちゃんとできて、ITに慣れている人でないと務まらないんです。本当は東京などでITをやっていた人に来てもらえれば、すっと入ってもらえるんですが。我々も少し甘く見ていました。

 

■「株式会社インターコム R&Dセンター」の今後のビジョンを教えてください。

我々のようなIT会社が南房総で成功すれば、ひとつのモデルになりますから、(都心の企業が)見学にいっぱい来ると思うんですよ。我々が先駆者になって、「南房総市でも大丈夫なんですよ」というモデルを作りたいですね。ビジネスに関しては、我々の仕事はあくまでも東京でやっていて、南房総市で売り上げているものは無いんですね。そのほうがビジネスとしては安定するからです。ですから今後も、東京で売り上げて、アウトソーシングの一部を南房総で行うという形は維持していくつもりです。稼ぐところがきちっとしていれば、こうしたビジネスモデルは安定して成り立つと思っています。

南房総市内にある株式会社インターコムR&Dセンター

今はスタートしたばかりで、教育をしながらやっているという段階ですが、いずれ彼らが一人前になればいろんなコストが下がっていきますから、会社全体としても、大きなメリットが得られるのではないかと思っています。今は20名ちょっとの体制ですが、将来的にはどんどん増やしていって、50人くらいになったら、本社のアウトソーシング以外もやりたいと考えています。ほかの企業から仕事をもらって、コールセンターや開発の仕事を引き受ける、という形ですね。さらに大きくなれば検査(バグを取る作業)を請け負うこともできると思っています。

元・お遊戯室というオフィスの様子。広い天井が開放的。

 

■南房総の魅力、おすすめの場所を教えてください。

南房総の最大の魅力はやはり、「東京に近い」ということです。会社を作れば、当然行ったり来たりする機会も多くなるわけですが、「近い」ということは、何かあった時にすぐに行けるということですから、非常に安心感がありますね。

個人的な視点で言えば、「海」が魅力的ですね。南房総には内房と外房の両方があって、景色が全然違うんです。外房は波があって、サーフィンなどをやる方も多いですが、内房に行けば波が無くなって、目の前に富士山が見えて。別荘でも建ててずっと住んでみたい、という気持ちになりますよね。まだまだ仕事があるので、叶いませんけれど(笑)。

 

--続いて現地の「株式会社インターコム R&Dセンター」を訪ね、高橋社長の甥であり、総務を担当されている鈴木貴(たかし)さんにお話を聞きました。

 

■まずは、鈴木さんのプロフィールを教えてください。

私はもともと南房総の市役所に勤めていまして、3年ほど前にインターコムの創業者である叔父からの話を聞いて、こちらに転職してきました。最初は本社に入りまして、半年ほどの間、総務、人事、経理の研修をして、こちらの開設と同時に戻ってきました。今は管理部の責任者として採用活動、労務、人事、経理、といったことを中心にやっています。

 

■東京圏から移動された社員さんもいるかと思います。どんな変化があったと聞きますか?

東京のインターコム本社で働いていた人は、現在こちらに3名おります。まずセンター長については、こちらに新しく家を建てられて、家族で移住をされています。出身は新潟なので「Iターン」ですね。自分の意志で移住を決められたそうです。ふたり目の方は、本社から出向という形でここに来ていまして、横浜から毎日通ってきています。将来こちらに住むかは未定ということです。もうひとり、若い社員の方は、こちらにアパートを借りて、本社から転籍という形で、こちらに住民票も移して移住して働いています。

生活の変化については、センター長からは「自分の時間が長くなった」と聞いています。東京にいた時よりも、「自分の1日」が、いい意味で長くなったそうです。通勤の時間もそうですし、何より心のゆとりが生まれて、ワークライフバランスを意識できるようになったということです。そういった時間には奥様と散歩を楽しんだり、家事をしたり、リラックスした時間を過ごされているようです。

若い社員の方については、埼玉県の出身で、こちらに来る前は不安を感じていたようなんですが、来てみたら意外と住みやすくて、日々が充実していると話していました。以前は、休みの日には家でゴロゴロしていたそうですが、ここに来てからは、休みの日には外に出て、「休む」ではなくて、「休日を楽しむ」ということで、楽しくやっているようです。

 

■業務面で効率は上がっていると思いますか?

都会のビルの中のオフィスに比べて、開放感がありますので、リラックスしつつ集中力が高まるということで、効率は上がっているのではないのかな、と思います。ストレスの感じ方がだいぶ違うかと思います。通信手段についても特に支障は感じていません。電話、メール、テレビ会議、そういったものを駆使しながら、本社と連携してやっています。

 

■サテライトオフィスを開設して良かった点は何だと思いますか?

私もずっと南房総で働いてきましたが、この地域には、(若い方が希望する)仕事があまり無かったので、そこに、弊社のようなIT企業という業態が加わることで、若い方がチャレンジできるような環境が生まれて、これは、地域にとってメリットになっているのかな、と感じています。こちらの出身で都会で働いている方が、地元に戻って就職する時の受け皿にもなりますし、高校生や大学生が、地元に戻りやすい環境もできたのかな、と思います。

 

■社員の方の1日の業務の流れ、東京の業務との変化について教えてください。

弊社の場合は9時からサポートを開始いたしますので、8時50分に始業をして、17時20分までの勤務時間となっています。1日に10件から15件程度の電話対応をしながら、ほかの時間は本社のエンジニアと連携をして、問題の原因解明をしたり、その結果を電話やメールで返答する、ということをしています。大きな流れについては、東京と変わっていないかと思います。

お昼は12時から13時の1時間なのですが、中にはお弁当を持って海に行って食べたり、という方もいます。これは都会ではできないことですね。午後も同じようにサポート業務をして、最後には記録をまとめて退社するというのが、1日の流れです。通勤時間が短い方がほとんどなので、自分の時間は取りやすいと思います。

配送センターについても時間の流れは同じで、本社から毎朝、出荷の依頼が来ますので、それに基いてCDやDVDの製品と、説明書、保証書などを組み合わせて、出荷物を作るという作業を行っています。

 

■南房総の好きな点、好きな場所を教えてください。

いろいろな魅力はあるんですけれども、都会から移住された方に聞くと、「太陽の輝きが違う」とよく言われます。流れている空気も、流れている時間も、すごくゆっくりしている場所なので、自然に気持ちも穏やかになって、リラックスできると思いますよ。

インタビューを通して、地方にオフィスを構えることで会社としても働く社員としてもメリットが多くあることが分かりました。南房総市のサポートも手厚くきめ細やかな印象を受けました。高橋社長、鈴木さん、ありがとうございました!